国民投票法案:「ちいさな出来事」が残す「小さなわだかまり」を忘れないように

 民主党が採決に同意した時点でわかっていた結論ではあったが、実際に決まってしまうと、言葉にならないマイナスの感情が体のなかにどんどん溜まっていくのをやはり感じてしまう。
 あまりにあからさまに、恥としか言えない様な愚劣な法案が、勘違いした為政者のゴリ押しだけで通ってしまい、国民の意思よりその空気を読んでしまう最大「野党」がいるという現実。怒りを通り越して、いや、湧き上がってこない怒りなど通り越せるはずもなく、ただただ虚しい感情だけが体の奥底にどんどん沈殿していく。

 と書くと大げさになってしまう。実際には、とても淡々としている自分がいて、その自分の中のどこかに、小さく暗く重いものがひとつ沈んでいったというのが正直なところ。ただ、確実に、かつじわじわと自分の気持ちを侵食するものがまた一つ増えたことだけは間違いない。でもたぶん、明日もまたあまり変わり映えのしない生活がつづくのだろう。

 実際、そういう変わり映えのしない生活というのは結構面倒かつ忙しいもので、こういう事態になにかしようと考えるが意外に時間を作るのが難しい。世の中にはいろんなことが起きていて、それはマスメディアなどを通じて日々私たちの元に届けられる。私たちはそれをまさに他人事として受け流しつつ、変わり映えのしない生活を続けている。

 あのどうしようもない愚劣な法案が採決されたと聞いて、突然思い出したのが、さだまさしの「前夜(桃花鳥)」という歌だった。1982年発表の「夢の轍」というアルバムに収録された弾き語りの静かな歌だ。
 その「前夜(桃花鳥)」にこんな一節がある。

 戦争を報じるTVニュースに、みんな他人事みたいに歓声を上げていて、「こわいね」と振り返ったときにはすでに画面はお笑いになっていた、というフレーズの後に、次の一節が続く。

わかってるそんな事は たぶん

ちいさな出来事 それより

僕等はむしろこの狭い部屋の平和で手一杯だもの

I'm all right I'm all right

そうともそれだけで十分に僕等は忙し過ぎる

 多くの人にとって、いま現在の生活からみて、あまり関わりのない小さな出来事は、一瞬のあいだ話題として消費されたあと、忙しすぎる日常の前に忘れ去られる運命にある。この歌が世に出た25年前から、いやもうもっと前から変わらないこの現実を前に、どうしても気が滅入ってしまう自分がいる。

 でも、あまり関わりのない小さな出来事だって、それが目に触れ耳にしたあとには何らかの感情ものこるはず。それがたとえ小さなわだかまりであっても。
 この歌の「わかってるそんな事は たぶん ちいさな出来事 それより」というフレーズは、その小さなわだかまりが無視できないからこそ、出ている言葉であろう。多くの国民が、基本的に無関心ながらも、戸惑いながらもこの愚劣なる法案の拙速な成立を求めていないという意思表示をところどころでしていることは、その証左といえるのではないだろうか。

 これまでは「ちいさな出来事」として流してきたことを、これからはどれだけ流さず拾っていけるようになるか。戦時下の様相を見せてきた今のこの国の社会の中で、それが国民一人ひとりに問われているような気がしている。もちろん自分も含めて。

 その「小さなわだかまり」が、人にとっては実は一番言いたいことなのかもしれない。

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コメント(2)

 あちこちに似たような内容で投稿していますが、ご容赦ください。誰も何も言わないので頭に来ています。
 少し前の話ですが、6月都議会が終わりました。
 都議会民主党は石原都知事提案の議案にすべて賛成しました。すべて賛成したから必ずしもそうとは言い切れませんが、都知事選の直後ですよ、浅野を推してたたかった「反石原」の姿勢は、やはり単なるポーズだったのですね。担い手の顔をかえて石原都政の中身を続けたいのが本音だったのですね。
 奇妙なのは、先の都知事選で浅野を推した自称「市民」の方々。「反石原」を信じてともにたたかったはずの民主党のこの態度に、管見ながら批判をしている方はどなたもいない。「浅野のハートに火を付け」た人たち。今度の参議院選挙に立候補される予定のK田R平さんとか、O河原Mさこさんとか。都知事選が終わったら関係ないと思ってらっしゃるのでしょうか。ずいぶんと無責任なことですね。

 一都民さま、はじめまして。コメントありがとうございます。

 先般の都議会のこと、おっしゃることそのとおりと思います。もともと都議会民主党に、イシハラさんに反対する理由などカケラもなかったのは明々白々だったんですがねぇ。一番票が取れそうとか、最大の「対立」勢力だとかいう「見た目の大きさ」だけで選ぶからこうなってしまうのでしょう。

 浅野さんが立つ経過にもいろいろと紆余曲折があったようですので、単純な話ではないと思っていますが、都議会民主党が乗っかってきたときに、これまでの同党の態度について筋の通った総括などをさせるべきであったとは思います。
 そういういろいろなことを踏まえつつ、浅野さんを推した方々には、共闘をブリッジする努力をもっともっとしてほしかったとは思っています。まあ共産党その他の勢力にも問題なしとは考えておりませんが、浅野さんや推薦した方々の総括がなかなか聞こえてこないことには、残念だとしか言いようがありません。

 こんなサイトにまでおいでいただきありがとうございました。更新はなかなか進みませんが、よろしければまたおいでください。改めてありがとうございました。

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この記事について

このページは、moony(M. H. Square.)が2007年5月12日 01:45に書いた記事です。

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