核廃絶は意志の問題。それを目指すために何をするのかというところからしか始まらない。

 NHKは、この夏の戦争関連の番組を多数放送(再放送も含む)していて、非常に重宝している。かつて見逃してしまって、二度と見られないとあきらめていた番組を含まれていて、毎日何かを録画してはディスクに焼く作業をしている。問題は、そうやって録り貯めた番組をいつ観るかということなのだが。

 そんな私が、当初は気にもしていなかった番組がある。8/15夜放送のNHK総合「日本の、これから、」という討論番組である。今回のテーマは「核」。核廃絶は可能かどうか、市民が討論するものだが、どうせろくなものにならないと無視を決めてかかっていた。
 それがどういう気持ちの変化か、ちょっと観てみようと思ってテレビをつけた。どういうつもりか自分でもよく分からないが、オバマ大統領が核廃絶宣言をし、にわかに核兵器問題がクローズアップされている今、なにか変化があるのではないかという淡い期待もあった。

 前半をみた感じでは、やはり話は簡単にはかみ合わない。当然である。とはいえ、オバマ演説に勢いを得てか、核廃絶派の意見は活発に見える。一方で、核廃絶に懐疑的な側は、基本的に現実を見ろ、なにも変わっていないという主張が中心だ。確かに世界の見かけは何も変わっていない。それどころか悪くすらなっている面もある。

 問題は、そういう状況になっていることについて、日本はこれまでどう振る舞ってきたかということが問われているが、それが討議のテーマに上ってきていないことが、かみあわなさのベースにあると感じた。いま目の前にある状況にどう対応するか、核廃絶懐疑派の認識のベースはその一点にある印象だ。
 一方の廃絶派は、こうあるべきだという主張を、あらたな状況をふまえつつ、模索しながら編み出している印象。ただ、国際的な状況に対する視野の広さは、明らかに廃絶派の方が広い。懐疑派は、意識している範囲が日本という国家の単位に限定されている印象が強い。知識としては持っているが、意見を言う際には使われていないように見える。あと、力を持たないとひたすら許しを請う状態になるみたいな、強迫観念が見え隠れするのが、ある意味おもしろい。おそらく、この懐疑派の論理をつきつめていくと、そのとき現れる国家の姿はイスラエルに近くなるだろう。議論がヒートアップすると、自然と先制攻撃論が当たり前に出てくるのが、今の日本国民の閉塞感を表しているという印象だ。攻撃したら報復するぞということを分からせるために核武装を、という意見をしきりに言う会社員がいたが、先に核攻撃されたときの状況をどう想像するか聞いてみたい。そのとき自分は生き残っているのか、生き残ったとしてその時の状況は想像できるか、そのとき自分に何ができるか、と。
 司会者が、議論を打ち切らざるを得ないシーンがたびたびあるが、ある意味予想通り。まあ結論を出す議論ではないので当然か。

 結局、日本はどういう意志をもって国際社会に関わっていくかということが問われている問題だと思うが、核武装が必要、核は必要という人たちの意見は、自国≒自分を守りたいという意識が強いあまり、あらゆるネガティブな可能性を取り上げて備えをしろ、という一点に集約されている。今現時点の現実は、そういう彼らの言う通りかもしれないが、だからこそこれからどうしたいかというのが一番問われているのではないのか。話し合いで相互理解を深め、そのことで攻撃衝動を抑止するという社会を目指すというのは、そんな非現実的とは思えなくなった、というのが、番組を途中まで見ての感想だ。守ることを過剰に求める人たちの意識は、おそらく話し合うことで理解できる可能性がある。そのあたりを感じさせてくれた点で、今回のこの番組は意義があったと勝手に思っている。
(もちろん、話し合いで完璧に理解し合えるというのはあり得ないと思っている。余談だが、それを目指すことのグロテスクさを示したのがエヴァンゲリオンだと理解している。ああ、本当に余談だ、これは)

 ということで、番組のホームページを通じて、以下の意見を送った。趣旨は、要するに核廃絶問題というのは意志の問題であって、世界の「空気」を見てどうしようと考える課題ではない。意志を決めて、それを実現するためにどうするかと考える課題である。
 ちなみに、核を持つという意志を決めたなら、それによって世界平和をどう実現するかというプロセスをシミュレーションしてみたらおもしろいだろう。動機は自国の安全のため。しかし、そのための核保有であって、決して攻撃に使わないということを世界にりかいしてもらうために、どれだけめんどくさい交渉をしなければいけないのか、想像を絶する外交技術が必要だと気づくに違いない。核武装して縮こまっていればいいと思っているのだとしたら、それは大きな間違いだと気づく、かな?


以下、NHKの番組に送った意見です。

Q1.北朝鮮の核の脅威について
 北朝鮮の核実験を受けて、日本政府は北朝鮮への輸出を全面禁止するなど、独自の経済制裁を閣議決定しました。一方で、日本への核攻撃が明らかな場合に、敵基地を先制攻撃するなど、新たな自衛策を唱える声もあがっています。あなたは、北朝鮮の核の脅威に対して、日本がどう対処すべきだと思いますか。最も力を入れるべきと思うものを1つお選びください。

A1.
 北朝鮮が何を求めているのかをふまえないまま対応を考えてもダメだ。彼らの最大の関心事は自国の体制保証であり、それを世界最強の軍事力を持つアメリカに求めているとみるべきだ。疲弊しきっている経済状況のもと、彼らが何らかの軍事行動を取れるとは思えない。先の「核実験なるもの」も、あれが本当に核実験だと確認できる情報はどこにもない。そんな不確かな情報しかないもとで、脅威がある、だからこちらも力で対応をなどと言っても無意味だ。アメリカ人記者拘束事件も、アメリカとの交渉カードであり、彼らの意識はアメリカに向いていて、日本は二の次三の次。
彼らと話し合いもできないとよく言われるが、彼らが何を求めているのかをつかめもせずに、もう話し合いは無理だなどと言っても、それは我が国の無能力さをさらけ出しているだけ。ろくな努力もせずに、勝手に怒っているだけでは何の解決にもならない。いまこそ、話し合いの糸口を見つけるための交渉をすべきだ。

Q2?1.日本の核政策について
 日本は唯一の被爆国として非核三原則「持たず、作らず、持ち込ませず」を宣言しています。しかし、その一方で、アメリカの核の傘に頼っていることの矛盾が指摘されたり、「自衛のための必要最小限度の実力を超えなければ、核兵器の保有は憲法9条の禁ずるところではない」という過去の政府見解もあります。あなたは、日本の核に対する政策や姿勢をどう思いますか?

A2?1.
 核廃絶は意志の問題である。それを目指す意志を明確に表明することが重要で、その上でどういうプロセスで廃絶を実現していくかの交渉を積極的に進めていくべきもの。今の情勢がこうだからできる範囲で対応するというものではない。戦後のこの国の位置づけの経過と意味をふまえた上で、今後どうしたいかという観点で取り組むべき課題だと思う。オバマ演説のなされた今こそ、明確な核廃絶の意志を明確にするいい機会だと考える。

Q2?2.あなたは、日本の核の現状をふまえて、非核三原則や憲法9条についてどうお考えですか?ご自由にお書きください。

A2?2.
 Q2-1で述べたとおり、核廃絶は意志の問題。国際情勢の現状からどうするかと考える問題ではない。核廃絶をするには、我々は世界とどういう交渉をし、核廃絶のプロセスを、世界と協力してどう作り上げるかが大事であり、そのためには、非核三原則を改めて国是として位置づけ直すことと、憲法第9条の維持発展が必要になる。

Q3.アメリカの核廃絶へ向けた動きについて
 オバマ大統領は、核兵器の廃絶を唱え、これまで後ろ向きだったCTBT(包括的核実験禁止条約)の批准や、ロシアとの間で大幅な核兵器削減交渉を目指すなど、具体的な目標を掲げています。しかし一方では、核の拡散は止まらず、核がテロリストに渡る危険性も指摘されています。あなたは、アメリカが主導する核廃絶はうまくいくと思いますか?

A3.
 当然のことながら、単純に核廃絶が進むとは思えない。だからこそ、我々が意志を持ってアメリカの核廃絶の取り組みを支持することが必要。おそらく何十年もかかるプロジェクトになるだろうから、その方向を維持・推進するための交渉を、日本が積極的に担うことが必要だと思う。繰り返すが核廃絶の意志が不可欠であって、世界の「空気」を読んでからという対応では、自分たちの存在意義さえ失いかねない。

Q4.核廃絶に向けた日本の役割について
 これまで日本は、広島・長崎を中心に、核兵器の悲惨さを世界に伝えるなど地道な活動を続けてきました。あなたは、唯一の被爆国として日本がすべきことは何だと思いますか?ご自由にお書きください。

A4.
 Q2-1,Q2-2,Q3に述べたとおり、明確かつ早急な核廃絶に取り組むことを国家の国際公約として意思表示し、そのための話し合いをとりまとめるための交渉役として活動すること。、難しい国家間(民族やあらゆるグループを含む)の利害調停を、世界と協力して積極的に担っていく。

「Q5.自由記述」は、何か書いたはずだが、コピーをとるのを忘れてしまった。内容はQ2?4に書いた趣旨と変わらない。


 しかし、番組参加者は厳選しているのだろうが、ネトウヨなみの議論を展開する会社員や元自衛官はなんとかならんのか。自分が何様かにでもなったかの振る舞い、すぐ極論に走って、相手をレッテル張りしかねない勢いで、国際問題さえ引き起こしかねないのにとんと無頓着なのが許し難い。以上、感想でした。

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コメント(2)

 北朝鮮の核問題は既に手遅れです。
 北朝鮮は絶対に核を放棄しません。中国も核を放棄しません。ロシアもです。
 韓国は国民の65%が、自国の核武装に賛成しています。日本国民は、自国の核武装に20?30%しか賛成していません。
 先に韓国が核武装を成し遂げて、発言力を増す可能性があるでしょう。

 以上です。

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このページは、moony(M. H. Square.)が2009年8月15日 22:10に書いた記事です。

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