要求の「集約」と「反映」を考えるー「政権交代」は国民要求を差配する利権の争いか

 今も昔も、国民の要求はいろいろあって多様だったと思うが、政治に反映されてきたのは、多数を握ってきた保守勢力の議員が取り上げた要求が大半であったと思っている。本来なら、主権者たる国民の要求は政治に反映されるべきものであろうが、多数を占める保守系議員の「判断」によって、時期尚早・状況に合わないなどと断じられた要求はいかほどあったろうか。そういう議員の判断によって、長年にわたり国民の要求は「集約」され続けてきたと言える。

 しかし近年は、支持政党なし層(無党派層)が大きく増えている中で、議員の判断による要求の集約からこぼれ落ちる「要求」は、飛躍的に増えていると感じている。それを意識してか知らずか、曲がりなりにも国民の意見をどう反映させていくかの議論も多少なりとも目にすることもあるが、根本的な改善につながるとは思えないものが多数ある。

 たとえば議員定数の問題だ。

 国会議員定数の削減は、またマニフェストに載せる党もあるが、それよりもはるかに早く、地方議会では定数削減がどんどん進められてきた。地方自治体には、逼迫する財政問題という事情があるが、議員定数の削減が進むことで、多様なはずの「要求」が、強く「集約」される向に働くことになる。「要求」を受け付ける窓口が減り、議員ひとりひとりがカバーしなければならなくなる人口が増える。そして、議員ひとりひとりの権限が強まることになる。そういう中で、幅広い要求に丁寧に答えていこうとすると、そのとたんにコスト(ここではあえてコストという言葉を使う)が跳ね上がる状況になる。強まった権限を元に、こぼれ落ちる要求が増えたとしても、「集約」していこうという方向に流れていくのはごく自然なことと考える。
 国会議員定数の削減は、国レベルでもそれを行っていくということだ。
 それが果たして良いことなのかどうか。多くが「こぼれ落ちる側」にいる無党派層の人々は、特に敏感になった方が良い問題だと思う。

 要求の集約の実例を一つあげる。数年前、地元の自治体で、現在公立で運営している保育園を全て民営化する方針が、地元議会で決定された。しかし、待機児童が解消するどころが増加しつつあるなかで、民営化を進めるのは、過剰定員で保育の質の維持にならず、待機児童も解消されない、と考える保護者や保育士が集まって、当面は民営化の方針を凍結し、地元住民や保育士も参加して保育行政のあり方を考える場を作ってほしいという要求を出すことにした。
 これを持って各党議員団を訪問したところ、保守系の与党議員団は受け取るがそんな情勢にはないと回答、別の与党は受け取り自体を拒否、与党に協力的な野党第1党の会派も、たぶん無理だと回答した。ある無所属議員は、大いに理解を示してくれたが、議会に提出した議案には反対した。理由は「一律に民間活力を否定しているから」だそうだ。唯一賛意を示した野党議員団は、どうやったらその要求が通るか、運動の作り方からやろうということで、現在でも打ち合わせや集会等を行っている。

 そんな要求はいまの空気に会わないという立場と、どうやったら要求が通るか考えるという立場。「集約」と「反映」のどちらに重点を置くかで、これだけの違いが出る。

 折しも、国政を狙う野党第1党の民主党は、今度の総選挙向けの政策集で「インド洋での海上自衛隊による給油活動の中止」を外したという。あれだけ反対していたものを、外交の継続性を理由に容認する方向に舵を切ったということだ。同じ理由で、海外での海賊対策への海上自衛隊派遣も盛り込んだという。

 これだけ自民党・公明党の政治路線を変えてくれという声が渦巻いている中、それを「政権交代」で実現しようというのが同党の姿勢ではなかったか。この自衛隊がらみの政策に反対してきたのは、そういう「要求」を反映してのものではなかったのか。
 こういうことをするから、この党は信頼できないのだ。「政権交代」しても政策が前政権から変わらなければ、何にもならないではないか。
 おまけにこの党は、国会議員定数の削減さえ打ち出している。国民の要求を丁寧に反映させる意図はなく、強い権限をもって「集約」する立場を得たいということなのか。

 そうであれば、「政権交代」は単なる「利権の主導権争い」に過ぎないことになる。

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